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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)781号 判決 1960年9月12日

控訴人 東京都

被控訴人 後藤昌次郎

主文

原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、(但し原判決七枚目裏十行目に「原」とあるのを「原告」と訂正する。)、これを引用する。

被控訴代理人は、「本件請求は、国家賠償法第一条第一項の規定により、控訴人に対し損害の賠償を求めるものである。」と述べ、

控訴代理人は、末尾添付の別紙「控訴人の準備書面」に記載したとおり述べ、

証拠とし、被控訴代理人は、当審における被控訴人後藤昌次郎本人尋問の結果を援用し、丙第四、第五号証の成立を認め、控訴代理人は、丙第四、第五号証を提出し、当審における証人石田昇、同細野進の各証言および被控訴人後藤昌次郎本人尋問の結果を援用した。

理由

(一)  被控訴人が昭和二十九年六月当時、弁護士であつたこと、被控訴人が同月十五日丸の内警察署を訪れ、当時東京都警視庁所属の警察官であつた訴外細野進(当時、丸の内警察署の公安主任)、同石田昇(当時、右警察署の署長)と順次面会し、それぞれ同人らに対し、その前日である同月十四日公務執行妨害罪等の容疑で逮捕され同署に留置されている被疑者に接見したい旨を申し出たが容れられなかつたことは、当事者間に争がない。

(二)  被控訴人は、細野および石田が右面会の際被控訴人に対し侮辱的言辞を吐き、違法に被控訴人の名誉を侵害した旨主張するので按ずるに、成立に争のない甲第一号証、丙第一ないし第三号証、原審および当審における証人石田昇、同細野進の各証言、並びに原審における原告、当審における被控訴人後藤昌次郎各本人尋問の結果(但し、いずれも後記採用しない部分を除く)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

すなわち、(1) 被控訴人は、昭和二十七年東京大学法学部を卒業の上、司法修習生の課程を経て昭和二十九年四月弁護士を開業し、東京合同法律事務所において法律事務に従事していたが、同年六月十五日同事務所に、当時日本共産党機関紙「アカハタ」等の販売に従事していた訴外日高正夫が訪れ、被控訴人に対し、前日である十四日夕刻仲間の東山という青年が東京駅八重洲口で「アカハタ」を販売中、鉄道公安官に公務執行妨害の容疑で不当に逮捕され、丸の内警察署に留置されているから、その弁護を依頼したい旨申し出たので、被控訴人はその被疑者に会うため、右日高を伴つて同日午後三時頃丸の内警察署に赴き、受付にいた訴外山本利仁巡査に来意を告げた。(ちなみに、当時被控訴人は、前記日高から右被疑者の弁護の依頼を受けただけで未だ刑事訴訟法第三十条第二項に列挙した弁護人の選任権者から弁護人に選任されていなかつたことは、弁論の全趣旨に照らし明白である)。しかして山本巡査は、自己の上司に当る公安主任の細野に取り次いだ結果、間もなく細野は、同署一階カウンターの内側で被控訴人と面会した。(当時、細野は二階の部屋で執務していたのであるが、被控訴人が来訪したので一階へ出向き、そこで双方共椅子に着席して対談した)。(2) 被控訴人は、先ず自分の職業、姓名を告げ、前示被疑者に会わせて貰いたい旨申し出たところ、細野は、「その被疑者は現在取調中であるが、公安事件であり、被疑者は默秘権を行使し、名前も言わないし、弁護人を選任したいとも言つていないから会わせることはできない」旨答え、右接見の申出を拒否した。そこで被控訴人は、「弁護士が被疑者の弁護人となろうとするのだから、刑事訴訟法第三十九条第一項により接見を拒むことはできない」旨述べたが、細野は、「弁護士なら誰でも会わせるというわけにはいかない」旨答え、申出拒否の態度を固持して譲らず押問答となつたが、被控訴人は、弁護士が被疑者の弁護人たらんとする以上、当然被疑者に接見し得る権利があり、被疑者が默秘権を行使していることは接見を拒む理由にならない旨を力説強調すると共に、所携のズツクの鞄から取り出した小六法全書を細野の面前に突き出し、接見できないという規定がどこにあるのか、その根拠を示すよう要求したが、細野は、「それは弁護士なら知つている筈だ」と答え、また被控訴人が、「あなたは人権を無視している」と述べたのに対し、細野は、「人権の問題なら人権擁護局へ行け、」と答える等の応酬があつたが、被控訴人は、なおも六法全書を前に、接見できない根拠条文を示すよう相当激しく要求したところ、細野は、「そんなことを知らないと胸のバツヂ(当時、被控訴人が胸につけていた弁護士記章のこと)が泣くぞ。」と言つて話を打ち切り、被控訴人が呼び止めるのも肯かず、その侭二階へ引き上げてしまつた。しかして右両者の対談の時間は約十分ないし十五分間位で、その間、両名の附近にいた者は、被控訴人と同行した前記日高だけであり、他には、これらの者と距つたところに、同室内で机に向つて執務中の警察職員や、交通違反事件の被疑者四、五名がいたにすぎなかつた。(3) 右の如く細野が二階へ引き上げてしまつた丁度その時、偶々石田が署長室から出て来たので被控訴人が面談を求めたところ、石田は被控訴人を署長室に招じ入れ、両名は応接用の椅子に着席して対談した。先ず、被控訴人は、弁護士として前記被疑者に会いに来たことを告げ、「今、係官に交渉したところ断わられたが、会わせて貰いたい」旨申し出たところ、石田は、「係の公安主任が拒んでいるのなら接見させることはできない」旨答え右申出を拒否した。そこで被控訴人は、「自分は被疑者の弁護人となろうとする者であるから、刑事訴訟法第三十九条により会わせなければならぬ」旨を言つたが、石田は、弁護人選任権者からの依頼がなければ弁護人ではないとの見解を述べ、かつ「公安事件では被疑者に会わせないことが多い」等と述べて、依然被疑者との接見を拒んだ。その間、被控訴人は、「あなたは刑事訴訟法をじゆうりんしている」とか、「憲法や刑事訴訟法を知つているか」と述べ、石田が「余りよく知らぬ」と答えるや、「それで署長が勤まるか」と難詰したので、石田が、「専問家という程には知らないが、仕事をするのに差支えない程度には知つている」旨答える等のやりとりがあつた。次いで被控訴人は所携の鞄から小六法全書を取り出し、石田に対し、刑事訴訟法第三十九条を開けて見るよう要求したが、石田は「別に条文を見る必要はない」と答える等、押問答があつた末、被控訴人は、さらに接見を求めたところ、石田が、「この事件は検事から接見禁止命令が出ているから会わせられない」と言うと、被控訴人は、「未だ送検前であるから接見禁止命令が出る筈はないし、接見禁止命令は裁判官が出すものであるから、仮りに検事から出されたとしてもそれに従う理由はないではないか。あなたは独立の捜査官でありながら、そのような命令に従うほど見識がないのか」等と詰問したところ、石田は「青二才のくせに生意気言うな」とか、「今日は暇だから聞いてやるが、よくもいろいろ理屈を並べるものだ」と言つた。(尤も、これに対し、被控訴人が、「私はいろいろ言うが、あなたのように青二才というような個人的侮辱にわたることは言わない」と言うと、石田は、「いや、青二才の言うようなことを言うという意味だ」と釈明した)。かようにして、結局、両者は、会わせよ、会わせないという同じ議論を繰り返すことになるので、双方とも話を切り上げ、互に挨拶を交わした上、被控訴人は右警察署を辞去した。しかして被控訴人と石田との対談時間は、十五分ないし二十分間泣で、その間、右署長室には、被控訴人および石田のほかには、前記山本巡査が石田の連絡係として同席していただけで、他には何人も入室しなかつた。

以上の事実が認められ、前顕甲第一号証および丙第一ないし第三号証の各記載内容、原審および当審における証人石田昇、同細野進の各証言、並びに原審における原告、当審における被控訴人後藤昌次郎本人の各供述中、前段の認定と牴触する部分は採用し難い。

(三)  次に前記細野および石田の発言内容が、法律上、被控訴人の名誉を侵害する不法行為となるかどうかにつき判断するに、前記細野の「そんなことを知らないと胸のバツヂが泣くぞ」、石田の「青二才のくせに生意気言うな」、「今日は暇だから話を聞いてやるが、よくもいろいろ理屈を並べるものだ」という発言は、弁護士に対する言辞としては甚だ無礼低級であつて、右発言部分だけを切り離して見るときは、それは、まさに被控訴人に対する許し難い侮辱であるといわなければならないが、しかしそれが法律上不法行為となるかどうかについては、さらに本件各対談を全体として観察し、右発言がなされた前後の経緯、状況その他一切の事情を比較検討して判断しなければならぬことは、いうまでもない。ところで、前掲(二)において認定した事実および右認定の資料に供した証拠によれば、(イ)被控訴人は、細野および石田からそれぞれ被疑者との接見の申出を拒否されたのち、その理由ないし根拠を相当激しく追及し、その結果、同人らは被控訴人との間に争論中、その執拗にして、かつ高圧的ないし攻撃的な態度に誘発され前記の如き言辞を吐くに至つたものと認められること、(ロ)被控訴人と石田との対談は、前記の如く署長室の内部で行われ、右両名のほかには、石田の下僚である山本巡査が連絡係として同席していただけで、その他の第三者には全然聞こえない状態で行われたものであること、また細野との対談は、被控訴人と同行し、かつ右対談場所の附近にいた日高には聞こえる状態にあつたが、同人も細野の発した前記言辞の具体的内容を記憶していない程であり、その他の第三者には、右対談内容は聞こえなかつたものと認められること、(ハ)被控訴人自身も、細野および石田が前記言辞を吐いた当時、これを侮辱的言辞であるとして憤慨した形跡もなく、(唯、石田が「青二才」と言つた点につき多少の応酬があつたことは、前認定のとおりである)、石田との対談を終つたのち、被控訴人は右石田および同警察署の一階に居合せた署員に対し、それぞれ普通の挨拶をして辞去したものであり、(尤も、被控訴人は、その帰途、人権擁護局へ陳情に行つたが、それは、接見の拒否が不当であることを申し立てるためであつて、細野および石田から不当に侮辱されたことを申し立てたものではない)、右(ロ)および(ハ)の事実からすれば、細野および石田の前記発言は、当時の状況に照らし、被控訴人の名誉に対する侵害としては、その程度ないし影響が比較的軽微であつたものと認められること、以上のとおり認めることができる。しかして、以上認定の如き本件発言の経緯、状況、右発言による被害ないし影響の軽重、その他さきに認定した一切の事情を彼此参酌して考察すれば、細野および石田のなした前記発言は、弁護士に対する言辞としては礼を失し、警察官の品位を汚すものというべきであるが、法律上、被控訴人に対する不法行為を構成すべき違法性は未だ認められないものと解するを相当とする。

(四)  以上の次第であるから、細野および石田の前記発言が違法に被控訴人の名誉を侵害したものであることを前提とする被控訴人の本訴請求は、他の争点につき判断するまでもなく、失当としてこれを棄却すべきである。よつて以上と所見を異にする原判決はこれを取り消すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 田中盈 土井王明)

控訴人の準備書面

一、(事実誤認)

(1) 原判決は、訴外細野進及び同石田昇がそれぞれ一方的に被控訴人の名誉権を侵害したと認定しているが、右は事実の認定を誤るものである。

原判決は、細野が「そんなことを知らないと胸のバツヂが泣くぞ。」といい、石田が「青二才のくせに生意気言うな。」、「今は暇だから聞いてやるが、君はよくいろいろ理屈を言う奴だ。」といつたと認定している。右細野や石田がそのようなことをいつたかどうかは別として、仮にそのようなことをいつたとしても、これらの部分の言辞のみを抽出して、このことより弁護士たる原告の名誉権を侵害したとなすことは、余りにも一方に偏しているといわねばならない。事の真相は、これらの発言の行われた状況を全体として観察して初めて、これを把握できるものである。

事の起りは、被控訴人において、いまだ被疑者の弁護人に選任されていないのに接見の申出をしたところ、細野や石田がそれぞれこれを拒んだことにその端緒のあることは、原判決の認定するところであり、細野や石田の前記の言辞が、それぞれその後の被控訴人と同人らとの約一五分ないし二〇分間の面接のうちに発せられたことも、原判決の認定するところである。そして、これを石田について見るならば、その間において被控訴人が「未だ送検前であるから接見禁止命令が出る筈がないし、接見禁止は裁判官が出すものだから、仮に検事から出されたとしてもそれに従う理由がないではないか。あなたは独立の捜査官でありながらそのような命令に従うほど見識がないのか」と石田にいつていることも、原判決の認定するところである。

そこで、これらのことを併せ考えるならば、被控訴人において細野や石田に対し、それぞれ接見禁止の理由や根拠を激しく追及する余り、度を越えて、例えば右に引用した石田に対する言葉のように、右両人をそれぞれ侮辱するような言辞を用いるに至つたため、右両人もそれぞれこれに挑発されて前記のような発言をするに至つたものであると認定することができる。

右のように、俗にいう売り言葉に買い言葉の状態で相互に相手方を侮辱するような発言をした場合には、相互に相手方の発言をもつて違法性があるものとなし得ないものであるというべく、そのうちの一時点における一方の言辞のみをとらえて、その者が他方に対して不法行為をなしたとすることは、誤である。

(2)  なお、これに関して附言するに、被控訴人が、本件訴訟を提起する以前に、自ら原告となつて、右細野、石田及び内田副検事を被告として、本件同一事案に関し、慰藉料請求の訴(東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第六、六七三号)を提起したが、右訴訟において原告敗訴の判決を受け、右判決が昭和三〇年 月 日確定している事実がある。

そして、右確定判決においては、控訴人が(1) で述べたと同一の理由で、細野及び石田の行為は不法行為とならぬものと判断され、従つて不法行為による右両名の慰藉料支払義務はないものと判断されている。

二、(法令解釈・適用の誤り)

(1)  原判決は、右細野及び石田がそれぞれその言辞によつて、被控訴人の名誉権を侵害したと認定したうえで、「而して細野並びに石田は当時東京都警視庁管下丸の内警察署の職員であり、右言辞はその職務を行うについて発せられたものというべきであるから、被告東京都は原告(被控訴人)に対してこれが損害を賠償する責任あるものと言わなければならない。」としている。

若しその趣旨が、控訴人において民法第七一五条にいう「使用者」の責任を負うべきであるというのであるならば、右判決は同条の解釈を誤つたものであるといわねばならない。なぜならば、同条によれば「或事業」のため「他人ヲ使用スル者」が責任を負うことになつているが、本件事案は刑事被疑者とその弁護人になろうとする被控訴人との接見の可否に関する応待中に生じた事件に基くものであるので、同条にいう「或事業」とは、結局、国家刑罰権発動に関連する事項であるというべく、従つて同条にいう「他人ヲ使用スル者」とは刑罰権の主体たる国であつて公共団体たる控訴人でないことは明らかであるから、控訴人において本件事案について同条の責任を負うべきいわれがないからである。

(2)  若し、また、判決の趣旨が、控訴人において国家賠償法第一条に規定する責任を負うべきであるというのであるならば、この場合においても、原判決は同条の解釈を誤つたものであるといわねばならない。なぜならば、同条の趣旨は、公権力の行使に当る公務員が、その職務即ち公権力の行使をなすときに限り、国または公共団体がその責に任ずるとなすものであるが、本件事案において問題となつているのは、細野、石田と弁護士である被控訴人との対談応答中において用いた言葉使のよしあしの問題であつて、そのことは、直接公権力の行使と関連しているわけではなく、すなわち、一応別個の性質の問題であるから、このような場合は「その職務を行うについて」行われた不法行為ということには当らないと考えられるので、控訴人において同条に規定する責任を負うべきいわれがないからである。(なお、附言するに、前述の被控訴人と細野、石田及び内田副検事間の慰藉料請求の訴の判決は、細野、石田らの行為を非権力的行為であると判断しているように見受けられる。)

(3)  これを要するに、原判決は、法令の解釈・適用を誤つて、違法に控訴人に責任を負わしめているものである。

三、(既判力牴触)

また、若し原判決が、国家賠償法第一条の規定による賠償責任を認定しているものであるとするならば、前述のこと以外に次のことがいえる。

右同条の規定による責任については、国または公共団体のみが専らこの責任を負うものであつて、当該公務員が被害者に対して全く責任を負わないものであることは、判例通説の一致して認めるところであり、また、同条の規定によつて国または公共団体が負う責任は、代位責任であつて選任監督者としての責任でないこと、即ち、この責任は、本来ならば不法行為者たる当該公務員が被害者に対して負うべき責任であるのを、政策的な便宜の措置として、国または公共団体がその身代り的立場で負う責任であり、従つてこの際国または公共団体において、当該公務員に対する選任監督について全く過失がなかつたとしても免れ得ない責任であることも、通説の認めるところである。

以上要するに、右同条の規定による責任は、当該公務員自身ではなく、国または公共団体のみが負うものであり、それと同時に、国または公共団体は過失がなくとも責任を免れ得ないものであるから、同条による損害賠償請求の訴においては、当該公務員は被告としての訴訟追行権を失い、その代り、国または公共団体が右の訴訟追行権を有することとなつたものといわねばならない。

そうとすれば、右同条該当事実を請求原因とする訴においては、当該公務員に代つて訴訟追行権を有する国または公共団体が受けた判決の既判力は、当然当該公務員に及ぶと共に、当該公務員の受けた判決の既判力も、国または公共団体に及ぶといわねばならない。

なお、この点に関しては、破産管財人または代位権を行使して訴訟をした債権者の受けた判決の既判力が破産者または債務者及び、破産者または債務者の既に受けた判決の既判力が破産管財人または代位権を行使する債権者に及ぶものであることを、参考とすることができる。

これを本件について見るのに、前述のように、被控訴人は、既に、当該公務員たる細野、石田外一名を被告とする慰藉料請求訴訟において、請求棄却の判決を受け、その判決は既に確定しているのであるから、その判決の既判力は、右の理論よりして、当然に、細野、石田に代つて訴訟追行権を有する控訴人に及ぶものであるといわねばならない。

そうとすれば、原判決は、第一審裁判所がこの既判力の存在を無視して、これと牴触してなしたものであつて、取消さるべきであり、被控訴人の控訴人に対する本件請求は棄却さるべきである。

四、(判決の反射効牴触)

仮に一歩譲つて、右に述べた被控訴人と細野、石田らの間の訴訟の判決の既判力が控訴人に及ばないものとしても、次のことがいえる。

控訴人が細野及び石田のそれぞれの行為について損害賠償責任を負うのは、国家賠賞法第一条の規定によるか、民法第七一五条の規定によるかのいずれかである。

ところで、右いずれの法条によるにしても、被控訴人が控訴人に対し賠償責任を問うためには、その前提として、被控訴人が細野または石田の故意または過失によつて違法に損害を与えられたことを要し、この前提の充されぬ限り、被控訴人において控訴人に対し責任を問うことができないものである。

ところで、被控訴人が細野及び石田のそれぞれの故意または過失によつて違法に損害を与えられたものでないことは、前述のように既に判決によつて確定された事実である。

そうとすれば、被控訴人において、右確定判決のあつた後になつて、その確定判決による判断に反する事実を主張して控訴人の責任を問う本件請求は、失当といわねばならず、この点よりしても、被控訴人の請求は棄却さるべきである。

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